肥満というと、糖尿病や心血管疾患がまず注目されがちです。一方で近年は、体脂肪(とくに内臓脂肪)と、脳の働き(認知機能)との関係も研究されています。とくに、日本を含むアジア地域では肥満や生活習慣病の増加が続いており、将来の認知症リスクの負担が大きくなりうるという問題意識から、肥満と認知機能の関連について調査した研究があります。
Adiposity impacts cognitive function in Asian populations: an epidemiological and Mendelian Randomization study
(The Lancet Regional Health – Western Pacific掲載論文)
この研究は、シンガポール在住のアジア人男女8,769人(30〜84歳)を対象に、内臓脂肪を含む体脂肪の指標と認知機能の関連を調べたものです。
研究の解析(疫学解析と、遺伝情報を用いた解析)を総合すると、内臓脂肪が多いほど総合的な認知機能が低い傾向がみられ、さらに内臓脂肪やBMIに関しては「認知機能に影響しうること(因果の可能性)」が示唆されました。
この記事では、この論文の内容をもとに、内臓脂肪と認知機能の関係や日々の生活に取り入れられそうなヒントまで、わかりやすく解説します。
この研究のポイントは「内臓脂肪を含む脂肪の量」と「認知機能」の関係を調べたこと
この研究は、シンガポールに住むアジア人の大規模データを用いて「体脂肪」と「認知機能」の関係を調べたものです。体脂肪は、内臓脂肪を含む複数の脂肪を対象に評価しています。
認知機能は、コンピュータを使った複数のテストで測定し、その結果をまとめて「脳の総合的な働き」を計測しています。ここで見ているのは、単純な記憶力だけではなく、注意力や反応の速さなども含めた、より総合的な認知機能です。
この研究の狙いは、「肥満」と一言でまとめずに、体脂肪の中でもとくに内臓脂肪が認知機能とどのくらい結びつくのかを具体的なデータで確かめることです。
内臓脂肪が約0.27kg増加するごとに、約0.7歳相当の認知能力が低下
この研究では、体脂肪と認知機能の関連を調査した結果、内臓脂肪が多い人ほど、認知機能(複数のテスト結果をまとめた総合的な指標)が低い傾向が、全体として一貫して見られたと報告しています。
論文では、この差をイメージしやすくするために、内臓脂肪の差を「年齢の差」にたとえて説明しています。具体的には、内臓脂肪が約0.27kg増加するごとに、約0.7歳の老化に相当する認知能力の低下がみられたと述べられています。
「体重」よりも「内臓脂肪」のほうが、認知機能との結びつきがはっきりしていた
この研究では、内臓脂肪を含む多くの指標を同時に見比べた結果、認知機能の低さと一貫して結びついていたのは「内臓脂肪の多さ」だったとまとめています。あわせて、善玉コレステロール(HDL)が低いことも認知機能の低さと関連していました。逆に、血圧や中性脂肪、血糖に関する指標は、内臓脂肪ほど明確には関連しなかったと述べています。
また論文では、別の角度として、遺伝情報を使った分析にも触れています。こちらでも、内臓脂肪がつきやすい(またはBMIが高くなりやすい)体質は、認知機能が低い傾向にあることが示され、一方で血圧・脂質・血糖の指標は認知機能の低さへの決定的な要因としては支持されなかったとまとめられています。
認知機能を保つには、体重だけでなく「内臓脂肪」の意識が重要
この論文が一貫して示しているのは、「体重」よりも「内臓脂肪の多さ」のほうが、認知機能の低さとのより強い関連が見られたという点です。著者らは、アジアでは肥満が増えていることも踏まえ、肥満(とくに内臓脂肪を含む過剰な脂肪)を防ぐ・減らすことは、認知機能を保つうえでも重要になりうると述べています。
一方で、この研究はある時点におけるデータを比較する設計のため、内臓脂肪が増えると必ず認知機能が下がる、と断定するものではありません。また、認知機能の評価はコンピュータ課題であり、デジタル機器に不慣れな人が不利になりうる点も限界として挙げられています。
しかしながら、この研究が示唆している内臓脂肪と認知機能の関係は、一考に値するのではないでしょうか。日々の生活においても、体重だけではなく内臓脂肪まで意識してみることで、認知機能まで含めたさらなる健康の維持・向上につながる可能性があります。
内臓脂肪を減らすうえでは、運動や食事内容、睡眠といった観点に加えて、断続的断食(インターミッテントファスティング)などをオプションの一つとして検討してみるのも良いかもしれません。











