コーヒーは、ただの嗜好品という枠を超えて、「健康に良い可能性がある飲み物」として語られることが増えてきましたが、老化や寿命、健康寿命といったテーマとどのようにつながるのでしょうか。
今回紹介するのは、コーヒー摂取と老化に関する人の研究をまとめたレビュー論文です。
この論文は、Ageing Research Reviewsという老化(エイジング)研究を専門とし、レビュー論文(総説論文)を中心に掲載する査読付きジャーナルに掲載された論文で、過去20年ほどの研究をまとめた結果として「適量のコーヒーを習慣的に飲む人は死亡リスクが低い」という傾向が、地域や人種をまたいで50本以上の研究で一貫して報告されていると述べています。
Impact of coffee intake on human aging: Epidemiology and cellular mechanisms
(Ageing Research Reviews掲載論文)
さらに、適量のコーヒーの利点は心血管疾患やがん、呼吸器疾患など主要な死亡原因だけでなく、加齢で起こりやすい物忘れや抑うつ、フレイル(虚弱)のような機能低下にも関係しうると述べています。
この論文の特徴としては、寿命だけではなく「健康寿命(健康に動ける期間)」に焦点を当てている点です。論文内では、全体の推定として適量のコーヒー摂取で健康寿命が平均1.8年ほど伸びるという見積もりを紹介しています。
そこでこの記事では、この論文の内容に沿って、コーヒー摂取と老化(寿命・健康寿命)の関係を、まず人の研究(疫学研究)で整理し、次に人体への影響を人や人の組織で得られた証拠に絞ってわかりやすく解説します。
著者らは、コーヒーや主要成分(カフェイン、クロロゲン酸など)が、老化に関わる生物学的な仕組み(DNAへのダメージや代謝の乱れ、炎症やストレス応答など)に影響しうる可能性を、人のエビデンスを中心に整理しています。
1日当たりコーヒー2~3杯で死亡リスクが低下傾向
この論文では、コーヒーを習慣的に飲む人は、飲まない人に比べて死亡リスクが低い傾向が、複数の疫学研究で繰り返し報告されていると述べています。
コーヒーの量と死亡リスクの関係は一律ではなく、少量でも関連が見られる一方で、最も死亡リスクが低い傾向が出やすいのは「3杯/日前後」とされることが多く、一定量を超えると関連が弱まる可能性も示されています。つまり、飲めば飲むほど良いという話ではありません。
死因別に見ても、心血管疾患、脳卒中、呼吸器疾患、がんなどで、コーヒー摂取と死亡率の低下に関連した研究があることにも触れています。コーヒーの量と死亡リスクとの関係は、2〜3杯/日前後で特に効果が大きいと説明されています。
たとえば、米国の大規模な追跡研究では、コーヒーを2〜3杯/日を飲む人で死亡リスクが0.82程度に低下すると整理されています。また別の大規模コホートでも、コーヒー2〜3杯/日に近い範囲で死亡リスクの低下が示されたことがまとめられています。
この論文で興味深いのは、カフェイン入りコーヒーだけに良い効果が見られるというわけではないという点です。本文では、全死亡との逆相関はカフェインの有無にかかわらず保たれた研究があること、さらにカフェイン代謝が速いか遅いかに関わる遺伝的な違いに左右されにくいことが述べられており、カフェイン以外の成分も関わっている可能性が示唆されています。
一方で、デカフェ(カフェインレス)は飲む人の数が少ないこともあり、結論の強さには限界があるということも述べられています。
さらに、コーヒーの種類や淹れ方でも影響が変わりうる点として、粉とインスタント、フィルターの有無などで効果の大きさが違う可能性が本文で触れられています。
また、飲む量が多いほど良いわけではない理由の一つとして、この論文は高用量のコーヒー摂取によって不安や落ち着かなさ、頭痛、不眠、胃の不快感といった不調が起こりうることにも触れています。
コーヒーが人体に与える影響は?人の研究から見える老化に関連する要素への影響
ここからは、寿命や病気のリスクといった結果だけでなく、論文が述べているコーヒーが人体に与える影響について噛み砕いて見ていきましょう。ポイントは、コーヒーや主要成分(カフェインやクロロゲン酸など)が、老化に関連する要素に影響しうる可能性が、人のデータでも示唆されている点です。
適量のカフェイン飲料がDNAへのダメージ低下につながったという研究がある
論文では、一定期間コーヒー(またはカフェインを含む飲料)を摂ったあとに、「DNAが受けたダメージの指標」が減少したとする介入研究が紹介されています。
例えば、若い健康な人を対象にした研究で、1か月ほどカフェインを含む飲料を摂ったあとに、血液中のDNAダメージ指標が下がったという報告があります。
さらに、健康な成人男性84人を対象とした試験では、4週間にわたり「コーヒー750mL/日」を飲んだグループは、水を飲んだグループに比べて、血液中の細胞を調べたときに見つかる「DNAの細かな切れ目(細胞にストレスがかかったときに増えやすい変化)」が27%少なかったとされています。
コーヒー摂取とテロメアの長さとの関連が示された研究もある
論文では、コーヒー摂取とテロメアの長さの関連についても触れています。
ご存じの方も多いと思いますが、テロメアは染色体の末端にある構造で、その長さが細胞の寿命に関わるとされています。テロメアは細胞分裂のたびに短くなり、その短縮は老化の特徴の一つとされます。
観察研究の中には、2〜3杯/日程度のコーヒー摂取が、白血球のテロメアが長いことと関連したという報告が紹介されています。
コーヒーやカフェインでオートファジーが促進される可能性
論文では、さまざまな研究をまとめたうえで、コーヒーの習慣的な摂取や適量のカフェインが、オートファジーを促進する可能性があると述べています。
この背景として、論文では「mTOR(エムトア)」にも触れています。mTORは、栄養状態などに反応して体の代謝や細胞の働きを調整する仕組みの一つで、オートファジーとも関係があるとされています。論文では、コーヒーやカフェインがmTORを介してオートファジーに影響しうるという流れで説明しています。
ただし、オートファジーに関する研究の一部には、人の体では現実的に到達しにくいほど高い濃度のカフェインを使ったものもあるため、条件をそろえた検証が必要という注意も書かれています。
コーヒー習慣が「加齢に伴う慢性炎症」の低下に関係する可能性
論文では、加齢にともなって起こりやすい「弱い炎症が続く状態(インフラメイジング)」が、健康寿命に関わる重要な要素として取り上げられています。
そのうえで、複数の大規模調査をもとに、コーヒーを飲む習慣が、慢性炎症の低下と関連する可能性があると述べています。具体的には、血液検査で炎症の目安として使われるCRP(体内の炎症の目印の一つ)が、ブラックコーヒーを2〜3杯/日飲む人で低い傾向にあったという報告などが紹介されています。
また論文では、こうした関連が「カフェインだけ」で説明できるとは限らない点にも触れています。デカフェでも似た方向の関連が示された研究があることから、コーヒーに含まれるカフェイン以外の成分も関わっている可能性があります。
コーヒー習慣は、認知症や抑うつ、フレイルなどの発症の少なさとも関連
この論文は、寿命や主要な病気だけでなく、年齢とともに起こりやすい機能低下、つまり「健康寿命」に関連するテーマにも目を向けています。著者らは、疫学研究の全体像として、コーヒー習慣が認知症や抑うつ、フレイルなどの発症の少なさと関連しうると述べています。
このうちフレイルについては、より具体的に述べられています。論文ではフレイルを、筋肉や骨が弱って動きづらくなり、転倒や骨折のリスクも上がりやすい状態として説明しています。そのうえで、コーヒーをよく飲む人ほど身体機能が良い指標と結びついた研究や、筋肉量の低下(サルコペニア)やフレイルの起こりやすさが低いことを示した研究が挙げられています。さらに、骨がもろくなる状態(骨粗しょう症など)や転倒、骨折についても、それらのリスクが低い傾向に適量のコーヒーが関連しうるというメタ解析に言及しています。
コーヒーは「生物学的年齢」にも関係する?(エピジェネティッククロックの研究)
この論文では、近年よく話題になる「生物学的年齢」に関する研究にも触れています。生物学的年齢とは、誕生日で決まる年齢とは別に、血液などのデータから「体がどれくらいの年齢相応か」を推定しようとする考え方です。ここで扱われているのは、血液中のDNAのメチル化(年齢とともに変わりやすい特徴)のパターンを使って年齢を推定する、いわゆるエピジェネティッククロックの研究です。
論文が紹介している研究の中には、コーヒーをよく飲む人ほど、実年齢に比べて生物学的年齢が若いと報告したものがあります。
1日2〜3杯を目安に、コーヒーを生活に取り入れてみては
この論文が示しているのは、コーヒーを習慣的に飲む人は、飲まない人に比べて、全死亡が低い傾向(寿命が延びる傾向)が複数の疫学研究で繰り返し報告されているという点です。
またこの論文は、寿命だけでなく「健康寿命」にも目を向けています。加齢にともなって起こりやすい物忘れ、抑うつ、フレイル(虚弱)といったテーマも含めて、コーヒー習慣が関係しうる可能性に触れています。
その根拠としては、人の研究から炎症の目安や、DNAのダメージに関する指標、オートファジー、生物学的年齢(エピジェネティッククロック)など、老化に関わる仕組みとつながりうるトピックが紹介されています。
この論文においては、健康に良い効果が得られるコーヒーの量としては、だいたい2〜3杯/日前後と説明されています。コーヒーの量についての研究はさまざまありますが、おおむね3杯前後とされていることが多く、この論文でもその傾向が示唆されています。
コーヒーとカフェインと健康の関係。「1日3〜5杯程度」が鍵かもしれないという研究
コーヒーは健康に良さそうだからといっていたずらに量を増やせばよいという話ではなく、1日3杯前後を目安としつつ、自分の体調などを見ながら生活に無理なくコーヒーを取り入れるための参考としてみてはいかがでしょうか。











